人々の安全を左右する重要な部品の金型をつくる

硬度が高く切削加工が難しい金属である超硬合金を使った絞り金型を、日本で初めて製造した企業として知られるハイテン工業。超硬合金の加工以外にも、金属の熱膨張率の違いを活かし異なった金属を組み合わせる加工など、他社にない特徴ある加工を得意としています。

部品加工は金型で形をつくる金型加工と、金属を削り上げて形成する切削加工があります。切削加工は材料を塊から削り出すので、切りくずなどは無駄になってしまいます。金属の価格が高騰する昨今は特に、金型を使った加工の需要が高まっているそう。

同社の金型を使ってどんな製品がつくられているのか見せてもらうと、形もサイズもさまざまなネジやナットがずらり。聞けばこれらの約6割が自動車部品だといいます。いつも乗っている車のタイヤのホイールやエンジンに使われているネジやナットは、普段あまり意識が向くことはないかもしれませんが、ときに人命をも左右する重要なパーツ。非常に高い精度が求められる大事な部品の原型は、堺のこの地でつくられているのです。

1/100㎜単位の精密さで仕上げる高度な技術

「材料に熱を加えて鍛造する製造方法と比べ、当社が採用している冷間鍛造は常温で鍛造するため、熱などで収縮して寸法精度が失われることがなく、より細かな加工が可能です」

こう語るのは、3代目社長の佐伯知哉さん。

戦後間もない1950年の創業時から長年受け継がれ培った技術は、職人たちが時間をかけて磨き上げた知識と経験の結晶。その道具や製品には歴史と伝統が息づいています。同時に、工場内には大小さまざまな機械が並び、中には数千万円という高価な設備もあるのだとか。

「お客さまの細かなリクエストに正確に応えるために、常に最新の設備を取り入れるよう意識しています。同時に当社の強みは優れた職人による磨き技術です。熟練の技により、複雑形状品を1/100㎜単位で仕上げ、面粗度をRa0.02~0.03μmという繊細な鏡面に磨き上げます。職人たちが使う道具も、金型によって自ら製作したものを用いています」

専門技術を身近に感じるBtoCの商品開発

そんなハイテン工業の高い技術を活かし、近年立ち上げたブランドが「KON-KOU」です。

「当社が製作する金型は企業向けの、いわゆるBtoB。また、金型自体が製品でなく、自動車部品などの“製品をつくるための”金型ですよね。そのため、自分たちの製品が何に用いられ、どういった物になったかを知ることがあまりなく、成果が実感しにくいんです。そんな中、BtoC向けオリジナル自社商品の製作で明確なものづくりに挑むということは、当社の長年の夢でした。自分たちの製品を世間に知ってもらうことで、従業員もより仕事に誇りをもてるようになるはずです」

KON-KOUは「玉石混淆」からとったブランド名。さまざまな金属加工技術、金属素材、過去と現在の文化などが混じり合って一つのプロダクトに落とし込まれていく様子が表現されています。

「このわずか10㎝にも満たないお香立てにも、これまで蓄積してきた独自の技術とノウハウが、これでもかとつめ込まれています。切削加工で直径1㎜の細さを40㎜の長さに削り出し、放電加工でそれに合わせた細さ1㎜の穴をあける。熟練の金型職人が感覚を頼りに1ミクロン(1/1000mm)単位で調整をして、美しい仕上がりを実現しています。仕上げの磨き作業においては、金型職人が、加工時にほんのわずかに発生する小傷やバリを、形を崩さないように一つひとつ手作業で磨き上げて鏡面に完成させます。匠の技によって生み出される丁寧な仕事に、ぜひ注目していただきたいです」

お香文化とのコラボで堺の魅力を発信

堺が誇るお香文化とのコラボレーションもKON-KOUならではの試みです。お香立てとセットになっているのは、地元の高校生たちが手がけた線香。堺で育まれた伝統産業の線香技術を次世代に繋いでいくという、地元愛あふれるメッセージが込められています。また線香には日本茶の香りを採用することで、千利休が堺で広めた茶の湯の文化の魅力も発信しています。

堺で培った伝統と高い技術が織りなす独自の世界観を、小さなお香立てにぎゅっと詰め込んだハイテン工業のKON-KOU。ぜひ手に取ってその熱量を肌で感じてみてください。

取材・文/土屋朋代 撮影/佐藤裕

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