竹野染工株式会社 2024.10
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全国でも珍しいロール捺染で手ぬぐいを染める
堺市毛穴町を流れる石津川沿いは、かつては和晒の産地として知られ、今も周辺には生地をさらす工場や織屋があることから、手ぬぐいをつくる会社が集まっています。そんな町工場の一つが竹野染工です。
一般的に、手ぬぐいの染色方法は注染、プリント、ロール捺染(なっせん)の3つ。なかでも竹野染工が得意としているのがロール捺染です。染色したい場所に糊を混ぜた染料を金型でのせ、捺し染める技法を「捺染」と呼びます。柄や色彩を緻密に表現することに長けた技術で、「ロール捺染」では専用の機械を使いロール状の金型で生地に染料を捺し染めます。染めから乾燥までの工程が1台の機械で完了し、1時間に約3000mものさらしに染色を施すことが可能です。
年代ものの機械と職人技が織りなす繊細な染色
工場に足を踏み入れると目に飛び込んでくるのは、中央に鎮座する巨大で無骨な機械。大きな音をたてながらいくつもの歯車が回り、上部では炎が剥き出しのボイラーから蒸気がモクモク……。サイバーパンクさながらの風景に思わず息をのみます。
「ロール捺染専用の機械は全国で5台しかなく、そのうち2台は当社が所有しています。70年以上使い続けている古い機械で、もう製造されていないのでこれが壊れてしまうと技術継承ができません。なんとかこの技術をつなげるために、自分たちでも修理をしながら大切に使っているんです」
こう教えてくれたのは、ブランドマネージャーの織田美里さん。約100年前に誕生したロール捺染は、大量生産を目的に生まれた手法でしたが、需要が減り後継者がおらず、多くの同業者が廃業に追い込まれているそう。
職人も全国で10人以下ととても少ないのだとか。 「ロール捺染のカギとなるのは、捺染の最中に無駄な染料を落とすための“刃”なんです。これは職人の手づくりで、ステンレスの金属片をやすりや砥石で時間をかけて研ぎ刃に仕立てます。手ぬぐいの柄をきれいに出すには刃が鋭い方がいいけれど、薄過ぎると強度がなくなってしまい、刃が完璧でないと柄がぼやけてしまいます。この微妙な研ぎ具合を見極められるのは、経験を積んだ専門の職人だけなんです」
また、色の調合も職人技。ベースとなる50以上の色をブレンドしながら毎回新しいオリジナルの色をつくります。0.1gの配合の差で違った色合いになるため、表現は無限大。乾いたり熱を加えると変色する染料もあるうえ、反対面の色の影響も考慮しなくてはならないため、完成をイメージしながら慎重に調合します。また粘度も重要で、しゃばしゃば過ぎてもねっとりし過ぎても染まりにくくなってしまいます。
ロール捺染は機械任せのように見えますが、実は職人の技が不可欠なのです。
不可能と思われていた‟ロール捺染の両面染め”に成功
そんなロール捺染存続のため、竹野染工は付加価値の高いものづくりに転換。不可能と思われていた、表と裏で色が違う‟ロール捺染の両面染め”に成功しました。職人たちとともに試行錯誤を重ね、開発にかかった時間は実に約2年。
「ロール捺染の両面染めは当社の職人しかできない独自の技術です」と、織田さんも胸を張ります。
この両面染めの技術を使って、2017年には自社ブランド「hirali」と「Oo(ワオ)」を立ち上げます。
「hiraliは、ロール捺染による両面染色技術をもとに、“重ねの色目”という日本古来の色彩文化に着想を得たブランドです。日本の季語をモチーフとした色で表と裏をそれぞれ異なる色で染色し、これまでの手ぬぐいにはない色合いを楽しめます。
一方、Ooでは、手ぬぐいや赤ちゃんの布おむつなどに使われる和晒を輪っか状に縫って染め上げた、首の肌着をつくりました。こちらもリバーシブル染色を用い、機能性とファッション性を兼ね備えたアイテムとなっています」
商品を見せてもらうと、あの熱気あふれる工場でつくられたとは思えない爽やかさ! 発色も美しく、裏と面の色の組み合わせにセンスが光ります。
「手ぬぐいの織工場、さらし工場、染工場が集まる堺は、全国でも随一の手ぬぐいの産地だと思うのですが、県内ですらあまり知られていないと感じています。現代の生活に取り入れやすいデザインと高品質なアイテムを、全国、ひいては世界中の人に使っていただき、『手ぬぐいといえば堺』と言ってもらえるようになればいいと思っています」
取材・文/土屋朋代 撮影/佐藤裕
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