600年あまりの歴史をもつ「堺打刃物」

堺は日本における刃物の六大産地のひとつ。600年あまりの歴史をもつ「堺打刃物」は、その切れ味の鋭さと使い勝手のよさから、プロの料理人用包丁では国内シェアのほとんどを占めるほどの人気を誇ります。さらに近年の和食ブームも相まって、世界の料理人たちからも注目を浴びています。

刃物には、職人の手仕事でつくられる「打刃物」と、金型で打ち抜いて成型する機械生産があります。堺が得意としてきたのは前者の打刃物。素材となる軟鉄や鋼を真っ赤に熱し、金槌などで叩き延ばして鍛える“鍛造(たんぞう)”という技法が用いられています。叩くことで金属内部の組織を密にして強度と粘り強さを高め、極上の切れ味と耐久性、そして美しさを生み出すものです。

「堺打刃物」の生産は伝統的に分業制なのが特徴のひとつ。大きく「鍛造」「研ぎ(刃付け)」「柄付け」の3つの工程を順に巡り、1本の包丁ができあがります。各分野のプロがそれぞれの技術を極めることで、他産地と一線を画す高い品質を維持できるのだといいます。

伝統技術を生かした新しい包丁づくり

それらの工程を自社工場(一部商品)で担うという珍しい体制で生産する青木刃物製作所は、昭和22年(1947年)創業の堺を代表する包丁メーカーのひとつです。

「社内で分業制をとっており、専門の職人がそれぞれの分野で切磋琢磨しています。分業でありながらひとつのチームでもあるので、各工程がお互いにフィードバックし合えるのがいいですよね。また、何か新しいものを試作したいと思ったときに、社内ですぐに形にしながら職人とともに手を加え、スピーディに商品化できるという点も私たちの強みだと思います」

こう語るのは、専務の青木俊和さん(写真右)と営業担当の米澤史昭さん(写真左)。お2人に堺市緑町に位置する「堺孝行三宝工場」で、それぞれの工程を案内してもらいます。

叩くほど刃の強度としなやかさが増す「鍛造」

まずは「鍛造」。鍛造とは「金属を鍛えてつくること」。燃え盛る炎の中で材料を真っ赤に熱し、金槌や動力ハンマーで叩き延ばしていきます。刃の強度としなやかさを共存させるため、硬い「刃金(鋼)」と軟らかい「地金(軟鉄)」の2つを接着してつくるのが基本です。

「鍛造は温度管理がとても繊細。熱くすれば延ばしやすくなりますが、温度が高すぎると切れ味を左右する炭素が抜けてよい包丁にはなりません。温度は熱した金属の赤み具合を目視で確認するしかないので、経験とセンスが問われます」

こう話すのは、鍛治職人の柴田良輔さん。薄暗い工房でひとり黙々と真っ赤な包丁と向き合う姿には、鬼気迫るものを感じます。

鋭い切れ味を生み出す「研ぎ(刃付け)」

こうして形になった包丁は「研ぎ(刃付け)」の工程へ。研ぎ職人によって刃研ぎや研磨を施すことで、包丁に鋭利な刃を付けていきます。まずは、刃の表面を荒い砥石で研ぎ、刃先の厚みを落とし形を整える「荒研ぎ」。その後、平らな面を研ぎ進めて刃先を研ぎ上げる「本研ぎ」へと続きます。

「研ぎすぎたら元には戻せないので、包丁の状態を見極めながら慎重に作業しています。

とても神経を使いますが、刃の完成形を見られるのはこの工程の醍醐味。美しい形と艶に仕上がったときは本当に気持ちがいいです」

研ぎ職人の戸川誠さんは、自慢の包丁を愛おしそうに見つめます。

最後に目の細かい砥石で仕上げ、ハンドルを取り付ける柄付け職人へと送られます。

プロ御用達の切れ味を家庭で

多種多様な包丁を展開する青木刃物製作所が、堺キッチンセレクションのために製作したのが「煤黒」三徳包丁です。樫の木に焼き目を入れさらに漆を重ねた、ナチュラルな趣のハンドルが目を引きます。

「一般のご家庭で使っていただけるよう、現代のキッチンにもしっくりなじむスタイリッシュなデザインを意識し、刃の形もシャープに仕上げています。ハンドルはシンプルなようで木目と焼き目が表情豊か。漆を塗ることで、上品な艶とともに、防水や防腐などの実用性も高めました」(青木さん)

デザインだけでなく、使い心地ももちろん折り紙つきです。今や日本国内のみならず、

世界各国に多くのファンをもつシャープでしなやかな切れ味は、一度体験したら虜になるほどの気持ちよさ。ぜひ一度体験してみてください。

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