香木輸入の中心地、堺で栄えた線香づくり

線香は、16世紀の終わりに中国から製法が伝わり、日本で初めてつくられました。堺は当時日本有数の貿易港であり、原料の香木が集まりやすかったことや、寺院が多かったことから線香づくりが盛んになりました。江戸初期になると仏教が庶民の生活に密接なものになったことから線香の需要は増加。加えて、堺生まれの千利休が広めた「茶の湯」もお香と相性がよかったことから、この地でさらに線香づくりが根付いたのだといわれています。

堺の線香は、選び抜かれた天然の香料の調合が特色で、香の芸術品といわれています。香料の調合率などは、それぞれの製造元の秘伝とされ、時代に合わせて工夫を加えながら受け継がれています。

360年あまりもの歴史をもつ老舗

そんな堺の線香づくりを代表する老舗のひとつが、360年あまりもの歴史をもつ梅栄堂です。江戸時代に紀州と泉州の交易ルートとして重要な役割をもった堺の目抜き通り、紀州街道沿いに建つ本社を訪れると、取締役の中田宗克(ときよし)さんが爽やかな笑顔で迎えてくれます。

江戸時代初期創業という歴史の長さに驚いていると、

「さらにさかのぼると、室町時代に薬種問屋を営んだのが始まりなんです」と中田さん。

香は空気を浄め心を安らげるだけでなく、時に健胃剤や解熱剤などとしての効力もあり、元来はその大半が漢方薬や香辛料として用いられていたのだとか。そのため明船・南蛮船の重要な交易品として珍重され、堺市中にも、中国からの漢方薬や香木を集めて商う薬種問屋が軒を連ねるように。それが後に、線香製造にも着手するようになったのだそう。

そうして明暦3年(1657年)に、線香や香類を扱う「沈香屋作兵衛」として創業。この「沈香屋」とは、堺独特の呼び名で、薬種問屋の中でも香を専門に扱うところにだけ、特別に許されたものでした。以来、国内外に線香やお香の魅力を伝え続け、現在は16代目。全国の各宗総本山で御用達とされることでも知られる、日本を代表するお香メーカーに成長しました。

100年以上も愛され続ける普遍の香り

本社内にあるショールームには、多種多様な線香がずらり。梅栄堂の代表的なシリーズといえば、誕生して100年以上の歴史をもつ「好文木」です。白檀などの天然香料をふんだんに生かした逸品は、まろやかでほんのり辛口な香りがとても上品。

「創業以来、書き記された門外不出の秘法を守り続けています。とても大切なレシピなので、社内でも知らされている人は数人しかいません」

目まぐるしく変わる時代の流れの中で100年以上も愛され続ける普遍の香りは、初めて聞いてもどこか懐かしいような、心にすっと溶け込む不思議な感覚を覚えます。

この他にも、コーヒーやイチゴ、フローラルなど新しい香りも数多く、時代に合わせた商品の開発にも抜かりはありません。

職人の手作業で丁寧につくられる逸品

工房では職人たちが伝統の技法に忠実に線香づくりをしています。

調合された粉末の香料を粘土状にする「こね」の工程では、熟練の職人が適度な柔らかさになるよう水分量を調整します。原料の状態や気候によっても変わるため、決まった配合はありません。頼りになるのは職人の手の感触のみ。経験だけがものをいう繊細な作業です。

粘土状になった材料は押出し機で線香状に絞り出し、盆板にのせて一定の長さに整えたら「乾燥」の工程へ。線香は急いで乾燥させると曲がってしまうため、ゆっくりと時間をかけて乾かしていきます。

「この工程も気候に大きく左右されるため非常に繊細で、昔は天気や温度、風向きで通気窓を開けたり閉めたり、昼も夜もつきっきりだったそうです。今は空調のおかげで少しは楽になりましたが油断は禁物。常に職人が線香の状態に目を光らせています」

乾燥にかける時間はなんと1〜3週間。その間も毎日、乾燥具合や曲がっていないかなど職人による厳しいチェックが入ります。

香りは生活を豊かなものにしてくれる

堺キッチンセレクションに認定されている「プレミアムインセンスホルダー Fio」は、世界的工業デザイナー奥山清行氏とのコラボレーションシリーズのひとつ。伝統的な”日本の香り文化”を次の時代にも継承していきたいという思いが込められています。

「商品名のFioはイタリア語で“花”を意味するFiore(フィオーレ)から名付け、お香はラベンダーの天然精油を配合した高貴で華やかな花の香りを選びました」

お香立ては九州佐賀県の有田焼。梅栄堂の社名の「梅」の花の形をモチーフにした優しい形状とモダンな銀色で、和洋問わずさまざまなインテリア空間に溶け込みやすいデザインが魅力です。

「香りは生活に彩りを添え豊かなものにしてくれます。例えば、私は朝の日課にしている瞑想の時間に線香を焚くのですが、香りがあるとより心と体の邪気が払われて頭の中がすっきりするような気がします。また、就寝の30分ほど前に焚いて部屋を香りで満たしておくと熟睡しやすいので、ぜひ試していただきたいですね」

線香というと仏壇で使うものというイメージのある人もいるかもしれませんが、この香りとデザインは完全に日常使い。個々の生活に上手に線香を取り入れて、日常をより豊かなものにしていきたいですね。

第4回「堺キッチンセレクション」 出品者募集のお知らせ

CONTACT

お問い合わせ