2025/10/31
株式会社武田晒工場 2025.10
伝統と革新が溶け合う「和晒」の未来
―武田晒工場が提案する“古くて良いもの”の新しい形
武田晒工場は明治44年(1911年)の創業以来、大阪・堺の地で110年以上にわたり「和晒(わざらし)」の伝統を受け継いできました。かつて和泉地域には200を超える生産事業者が存在しましたが、現在、日本全国で和晒を専門に行う工場は堺に残るわずか6社のみとなっています。和晒産業が衰退する厳しい状況のなか、武田晒工場は加工専業から脱却し、自社ブランド「さささ」を立ち上げ、伝統を現代のライフスタイルに息づかせる挑戦を続けています。

左から 4代目代表 武田清孝さん、お孫さん、専務 真一さん、「さささ」事業部の麻衣子さん
伝統を受け継ぎ、革新を織りなす
伝統の技を守りながらも、武田晒工場は時代の変化に応じて最新機械の導入や生産体制の刷新に柔軟に取り組んできました。
4代目代表の武田清孝さんは、先代であるお父様とともに、機械メーカーと協力し、当時最先端だった機械制御式「角槽窯」の開発に携わり、いち早く導入しました。代表の理系のバックグラウンドを活かし、プログラミングにも関わったことで、職人の勘と経験に頼っていた伝統的な工程は大きく進化しました。品質を保ちながら生産量やタイミングを細やかに調整できる体制が整いました。

また、武田晒工場の強みは、漂白工程を経ずに「精錬・のり抜き」だけで製品として仕上げることもできる高度な技術にあります。蛍光剤や漂白剤を一切使わないことで綿本来のやわらかな風合いと自然な生成りの色合いを活かすことで、口に触れても安心・安全な生地に仕上がります。この技術は、武田晒工場が長年にわたり培ってきた独自のノウハウで、「さささ」シリーズにも使われています。


工場内でひときわ目を引くのは、晒し上がった生地を一定の幅に整えるテンダー(幅出し)機が力強く稼働する光景です。生地の端をクリップで掴み、蒸気で伸縮性を与えながら引き伸ばし、乾燥させ、最後は冷却によって幅を固定する―この一連の工程を担うテンダー機、武田晒工場は小幅と広幅の両方に対応できるものを導入しています。しかし、これらの機械は現在、日本国内ではほとんど製造されておらず、非常に希少な機械とのこと。日々丁寧なメンテナンスを重ね、大切に使い続けています。



武田専務を子供のころから知るベテランの職人さんたち
万能だからこそ、使い方の提示が必要
業界内では「晒は万能な生地だ」と言われてきました。しかし、万能であるがゆえに、かえって特徴や使い道がうまく伝わらないという壁に直面していました。
百貨店の和装売り場や専門店でしか目にしなくなった和晒を、もっと人々の日常に届けたい —そんな想いから、今から15年ほど前にデザイナーとタッグを組み、ベビー向け肌着「天使のころも」を企画しました。しかし、安価な商品が溢れる市場では、和晒の良さが十分に伝えることができず、販売は難航しました。
転機となったのは、ある事業戦略コンサルタントとの出会いです。「まず和晒そのものを知ってもらう商品が必要」という助言を受け、従来の10m単位の「反巻(たんまき)」という長尺布から、誰もが手に取りやすい「ロール型」への変更を決断。そして、2020年にファクトリーブランド化へと大きく舵を切りました。
その際、特にこだわったのがパッケージデザインです。「いくら中身が良くても、まず手に取ってもらえなければ意味がない」という考えから、ブランドの世界観を伝えるために10種類ものロゴやパッケージを制作しました 。
商品名「さささ」は「さささっと使えるさらし」に由来しており、名前自体に使いやすさを込めています。たとえば、お出汁を漉す、野菜の水気を絞る、蒸し料理に使う。赤ちゃんのおしりふきや肌に優しい洗顔用の布としても活躍します。そして、何度も使ってくたびれてきたら、最後は台拭きや窓拭きなど、お掃除で役目を終えることができます。こうした具体的な使い方を提案したことで、若い世代の方々を中心に「これなら使ってみたい」という声が広がっていきました。


コーヒーフィルターの開発へ
「さささ」の利用シーンを伝えるための商品撮影中、スタッフが試しにコーヒーを淹れてみたところ、驚くほど美味しい一杯に仕上がりました。この偶然の発見が新たな挑戦のきっかけとなります。その後、百貨店などの催事で「コーヒーも淹れられますよ」とご紹介すると、特に男性のお客様から大きな反響があり、コーヒーに特化した商品の開発を決意しました。
世界中のコーヒー好きが納得する品質をめざし、コーヒーブランドであるOVERVIEW COFFEE JAPANに監修を依頼。専門家のアドバイスのもと、生地の目の粗さ、形状、そして縫製に至るまで、全てをコーヒーのために最適化しました。
一枚一枚を丁寧に縫い上げるのは、3名の職人さんたち 。使いやすさと見た目の美しさを両立するため、縫い代の処理や形状にも細やかな工夫を凝らし、「もっと良くするには?」と今もなお試行錯誤を続けています。


こうして生まれた和晒コーヒーフィルターの魅力は、なんといってもその味わいのまろやかさです。ペーパーフィルターでは失われがちなコーヒー豆本来の油分(コーヒーオイル)を適度に通すため、豆の持つ豊かな風味とコクを存分に引き出します。

そして、このフィルターをさらに特別な存在にしているのが、使うほどに深まる「愛着」です。綿本来の優しい生成り色の生地は、使い込むうちにゆっくりとコーヒーの色に染まっていき、まるで自分だけの一枚を“育てる”ような楽しさも味わえます。まさに、〈堺キッチン〉のコンセプト「道具を愛することは、くらしを愛するということ。」を体現する商品です。

左から 水出し用、扇型、円すい型
堺から世界へ、和晒産業の未来を担う
武田晒工場は、和晒の魅力を国内外へ広めることを目標に掲げています。まず国内では、「全国47都道府県すべてに取扱店舗を広げること」を当面の目標とし、着実に取り組んでいます。さらに、海外市場への展開も進行中で、現在は台湾での販売がスタート。武田専務は、欧米や北欧など環境意識の高い地域との親和性にも大きな期待を寄せています。
「和晒の良さを広く知ってもらうことが最優先。その先に、繊維業全体や手ぬぐい、浴衣など、日本の“昔は良かったもの”の再評価・活用につなげたい」と武田専務は語ります。

時代の変化とともに多くの伝統産業が岐路に立たされる中、武田晒工場は職人の技と科学的な合理性、そして現代のライフスタイルに寄り添う新たな発想で、「古いものが新しくて面白いと感じられる時代」をつくることを目指しています。





