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2025/10/31

竹野染工株式会社 2025.10

一枚の布に、幾重もの色を。唯一無二の技術で挑む、堺発の「両面染色」

大阪・堺の地で、竹野染工株式会社がロール捺染(なっせん)の技術を受け継いで約80年。円柱状の型を回転させながら布を染め上げる「ロール捺染」は、現在、全国でも数社しか扱えない貴重な技法です。そのなかでも同社は、日本で唯一「両面を異なる色柄で染め分ける」リバーシブル染色を実現しています。

三代目代表の寺田尚志さんは、旅行会社での勤務を経て、先代である叔父の急逝をきっかけに家業へ戻り、2005年に27歳の若さで代表に就任しました。当時の業界は斜陽で、取引先の問屋からは「やめた方がいい。業界は下がる一方だ」とまで言われたといいます。この厳しい状況に対し、寺田代表は「なくすには惜しい染色技術がある」「この工場にしかできない染めを残したい」と強く信じ、変革の道を模索しました。

リバーシブル染色のアイデアは2014年頃に発案されましたが、理論上可能でも、実際の染色には困難が伴いました。職人たちと3年にわたる試行錯誤を重ねた末、2017年に自社ブランド〈hirali(ひらり)〉を立ち上げ、技術を守り抜くための挑戦としてスタートしました。

現場に宿る「一発勝負」の職人技と技術伝承

染色業界において現在の主流はスクリーン捺染という技法です。竹野染工でも採用しており、高度な職人技術を要しないことが特徴です。一方、ロール捺染の工程は機械任せに見えますが、実は職人の勘と経験が不可欠です。特に柄をシャープに表現するために必要なのが「刃」の存在です。職人の一日は、市販品ではないステンレス材を包丁のように砥石で研ぎ、刃の鋭さと強度のバランスを見極める刃研ぎから始まります。この刃の研ぎ具合一つで、仕上がりの美しさが左右され、トラブルにもつながりかねない最も重要な仕事の一つです。若い職人が刃研ぎを習得し一人前になるまでには、約3年を要すると言います。

〈hirali〉のデザインは、平安時代の十二単に見られる「重ねの色目」という日本古来の色彩文化に着想を得て、華やかながらも現代の暮らしに馴染むようにアレンジされています。研究を重ねた唯一無二の高度な技術によって、それらの色の取り合わせを美しく表現することが可能となっています。

入社当初から〈hirali〉の染色に携わる職人の片山さんは、「リバーシブルをきれいに染めるのは本当に難しい。出来上がるまで成功しているか分からない『一発勝負』なんです」と語ります。少しのずれで柄が崩れてしまうほどの緊張感のなか、思い通りに染め上がった瞬間の達成感は格別です。

両面染色の難しさは、表と裏の染料が干渉し合うこと。特に今回認定されたストールのような薄いガーゼ素材は、手ぬぐいよりも干渉が強く、色の調合がさらに困難になります。染料を硬くしたり柔らかくしたり、機械の数ミリ単位の調整を職人の「勘」で行い、染み込み具合を微調整します。また、柄を完璧に一致させるため、通常の1回の染色工程に対し、3回の染め工程と位置ずれ防止工程が必要となり、さらに発色を促すため京都の蒸し工場での工程を経るため、通常より4~5倍程度の手間がかかります。この技術の難しさから、製品化から約8年経った今も、技術は「まだ完成していない」状態だと言います。

技術の継承についても、「マニュアルがない世界で言葉で伝えにくい部分があるため、何度も実践し、見て覚えてもらうしかない」とし、「努力に加えてセンスも求められる」とのこと。現在、染めの職人3人のうち、ロール捺染担当の2人は20代と30代と若く、彼らが切磋琢磨して技術を磨く姿は、この貴重な技術の未来を力強く照らしています。

入社約1年の山下さんは堺市の出身。地元にこのような誇るべき技術があるとは、入社するまで知らなかったそうです。現在は1色や2色で染めるデザインの商品を担当していますが、いつか大型ロールを使って4色で染めるデザインを任されることを目標に、日々研鑽を重ねています。

ものづくりの“支え手”の輪を広げて。

地域の誇り「小幅・一貫産地」としての発信と社会貢献

竹野染工が手掛ける「小幅」(手ぬぐい幅)の木綿は、堺市が古くから和晒産業の盛んな小幅木綿の産地であったからです。堺市は、布を織る工場、晒す工場、染める工場、仕上げる工場までが、一貫して完結する全国で唯一の地域です。
しかし、寺田代表は、地元住民でさえ「手ぬぐいの街」であることを知らない現状に課題を感じています。堺は刃物のイメージが強く、手ぬぐいの和のイメージは京都などの印象が強いからです。寺田代表は、この「小幅・一貫産地」という独自の強みを核に、時間をかけてでも地域全体を巻き込み、“手ぬぐいといえば堺”と語られる日を夢に描き、その実現に向けて挑戦を続けています。

その長期的な目標と並行して、現在取り組んでいるのが、B型就労継続支援作業所の運営です。これは、高齢化により担い手が減りつつあった手ぬぐいの畳みや裁断の作業を、障害のある人々に担ってもらうという取り組みです。竹野染工本社のすぐそばにあり、約20名のスタッフが<hirali>の出荷に向けた作業に携わっています。

おしゃれなカフェを思わせる空間の中、寺田代表が一人ひとりに優しく声をかけて回る様子からはスタッフ同士の親しさや信頼が感じ取られ、温かな囲気に包まれていました。ここで生まれる〈hirali〉の商品は、百貨店や海外にも出荷され、1枚2,000円から3,000円近くで販売されています。「自分たちが作ったものが、高く評価され、国内外で販売されている」という事実は、作り手としての大きな誇りとモチベーションに繋がっています。

「ロール捺染」という日本に残された最後の砦の技術、そして「小幅・一貫産地 堺」の伝統を背負い、竹野染工は唯一無二の技術力と社会貢献への強い思いを込めて、新たな挑戦を続けています。

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