分業により高い品質を生み出してきた堺の刃物づくり

刃物がつくられ流通するまでには、大きく「鍛造」「研ぎ(刃付け)」「柄付け」そして「卸し」といった工程に分けられます。

「鍛造」とは、鋼を真っ赤になるまで熱して叩いて水で冷やして焼き入れして……と、鋼を鍛えてより強くしなやかにする作業。包丁の良し悪しを決める大切な工程なだけに、一人前になるには時間のかかる職種です。

「研ぎ(刃付け)」は、鍛冶屋から上がってきた包丁の形をした黒い地金を磨いて刃を付けるところです。さまざまな素材があるうえ、鍛冶屋によって仕上がりに違いや癖があるので、それらを見極めながら細かな調整が必要です。

そして「問屋」で、刃に柄を付ける「柄付け」がされ、銘切、箱入れ、仕上げなどを経て、小売店に卸されていきます。

堺刃物の最大の特徴は、これらを“分業”すること。堺の伝統的な分業制は、各工程のプロフェッショナルの集団といえます。技を極めた職人たちが集結して1本の刃物をつくるからこそ、堺刃物は他産地に劣らない品質を保っています。

若い職人が活躍する風通しのよい現場

ただし、分業制はそれぞれの工程を別の事業者が行うことが多く、商品開発や商品改良に時間がかかることも少なくありません。

そんな欠点を補うべく、鍛冶職人・刃付け職人の両者が作業をする自社工場を50年ほど前に立ち上げたのが、昭和22年(1947年)創業の堺を代表する包丁メーカーのひとつ、(株)青木刃物製作所です。

「弊社の自社工場「堺孝行三宝ファクトリー」では、オリジナル商品など新しい商品のアイデアをすぐに形にできるのが強みです。また、職人から直接改善点などの意見をもらうことができるため、スピーディーな修正が可能となり、生産力アップへと繋げています」

こう語るのは、専務の青木俊和さん。

工場内を見回すと、若い職人が多く活躍しているのが印象的です。

「高齢化や後継者難が叫ばれる業界の中で、県内だけでなく県外からも弊社を目指して来てくれる20〜30代の若者がいるのは嬉しいことですよね。若い人たちはエネルギッシュで吸収も早いですし、モチベーションも高いので新しいことにも果敢にチャレンジしてくれています」と、営業担当の米澤史昭さんも若手職人たちに期待を込めます。

堺産の包丁に新たな価値を生み出す彫刻技術

このように社員に製造工程の一部を担わせる、いわゆる「社員職人」の仕組みで才能を開花させた社員の一人が窪田美知子さんです。一般職で入社した窪田さんですが、包丁の刃に文字などを彫る彫刻の技術が認められ、今では包丁彫金師として専用の作業部屋も用意されています。デザインから自ら手掛け、桜やコイ、五重塔などその種類はなんと100以上。非常に細かな柄を下書きなしで手彫りします。

「子供の頃から職人の世界に興味があったので、今とてもやりがいを感じています。新しいアイデアも柔軟に取り入れてくれる社風を活かし、これからも他の人がやったことのないことに挑戦していきたいですね」と窪田さん。

アートを施した包丁は特に海外で評価されたことから市場開拓にもつながっており、堺産の包丁に新たな価値を生み出しています。

また、2022年には本社近くに「堺孝行ナイフギャラリー」をオープン。500本を超えるスペシャルな包丁が壁一面に並ぶ様子は圧巻です。定期的に開催するイベントなどでお客様との交流の場として活用し、全世界に堺孝行・堺打刃物の魅力を発信しています。

刃物から堺市の伝統産業全体を盛り上げたい

今回、堺キッチンセレクションに認定された商品、「黄凛」33層槌目ダマスカス 和三徳(堺キッチンオリジナル)は、勤続29年のベテラン営業担当、宮野哲治さんが企画・開発を手掛けました。

「前回の認定商品「煤黒」和三徳包丁(堺キッチンオリジナル)のモデルを引継ぎ、スタイリッシュな三徳包丁に仕上げました。刃には錆びにくいステンレス系の素材を採用することで一般家庭でも扱いやすくした一方で、刃付け職人の技術により極限まで刃を薄く研ぎ上げているので、最高の切れ味を体現していただけます。また、手頃な価格にもこだわったので、より多くの方に手にとっていただければと思います」

青木刃物製作所のブランド名「堺孝行」には「堺」の文字が入っていることから、これらの商品が国内外で愛されることは、堺市のPRにもつながります。刃物から市の伝統産業全体を盛り上げていきたいと意気込む青木刃物製作所から、今後も目が離せません。

取材・文/土屋朋代 撮影/佐藤裕

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